〈書評〉良い値決め 悪い値決め −−きちんと儲けるためのプライシング戦略

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「良い値決め 悪い値決め きちんと儲けるためのプライシング戦略」日本経済新聞出版 田中靖浩 著

「せっかく素晴らしい製品を作り、おもてなし精神あふれるサービスを提供しながら「安売り」に甘んじている日本。なんとかしましょう。このままでは、悔しいです。」(本書 イントロダクション−安売りをしない安売り、値上げをしない値上げ より引用)

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コロナ禍を経験した私たちに、まさに必要な一冊

コロナ禍を経験し、私たちの生活は大きく変化しました。これに伴い事業にも再構築が求められています。特に値決めについては慎重に考えなければなりません。本書には、値決めの重要性、がんばりが儲けにつながる「良い値決め」の方法が、具体的に示されています。2015年に出版された本ですが、現在の私たちに、まさに必要な一冊としてお勧めします。

コロナ禍は利益管理を求めています

運転資金の蓄えは最終利益から

さて、私たちは、今回のコロナ禍を通じて様々なことを学びました。そのひとつが「運転資金」です。運転資金とは家賃や人件費、仕入れの支払いなどに必要な資金です。売上が突然消えるという前例の無い経験をし、私たちは常に最低2ヶ月分の運転資金を蓄えておく必要があることを痛感しました(私も痛感しました)。

コロナ禍の次の波に備えて、さらにコロナ禍が収束した後の新たな感染症の脅威に備えて、これからも運転資金の蓄えは必要となります。では、運転資金はどのように蓄えるのか。資金調達以外では、最終利益から蓄えるのです。

借入れの元金返済も最終利益から

今回のコロナ禍で、非常に多くの借入れが新たに起こされました。現在(2021年3月)はまだ元金の返済猶予期間と思われますが、返済はもうまもなく始まるのではありませんか。元金返済は利息と違い、経費からではなく最終利益から行われます。ですから十分な最終利益が必要になるのです。

売上起点から利益起点の収益モデルへ

収益モデルにも影響があります。例えば飲食店には、売価を下げることで客数を高め、それによって売上を維持する収益モデルがありました。これは通用しなくなるでしょう。なぜなら、コロナ禍は、「必要な会食」と「そうでもない会食」を仕分けてしまいました。コロナ禍の収束によって会食需要はある程度戻るでしょう。しかし、もとの客数は見込めないと考えた方が良いでしょう。客数が見込めないとなると、今後は売上起点ではなく利益起点の収益モデルが求められることになるのです。

運転資金を蓄えるにも、借入金の返済原資を確保するにも、必要なのは最終利益です。また、収益モデルの変化からも、今後は売上ではなく利益の重点的な管理が求められるのです。そして、利益をしっかり残すためには「安売り」ではなく「適正価格」での販売が求められるのです。

原価起点の値付けは、本当の価値を捨てている

それではここから「安売り」からの脱却のお話です。これまで、私たち日本人は「良いものを、より安く」の方針で値決めを行ってきました。これは原価を起点に売価を設定する考え方で「コストプライシング」と呼ばれます。これが間違いとはいいませんが、消費者が払っても良いと考える価値を考慮していないことに問題があります。生産者が思いもよらない価値を消費者が感じていたら。その価値を売価に反映させる機会を自ら放棄していることになります。自社視点の値決めがそうさせるのです。

これに対し著者は、「顧客中心の値決めを目指そう」そのためには「値決めの主人公を顧客の側に置くこと」と述べています。顧客の感じる価値を起点とした「バリュープライシング」と呼ばれる考え方です。

著者は「安さを超えた、楽しさや、快適さや、共感や、居心地の良さを提供できているか?」を振り返って確認することが大事と伝えています。私たちは、提供する製品やサービスが、顧客にとってどのような価値をもたらすのか、どのように貢献するのか、これを起点に売価を考える必要があるでしょう。

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