写真はわからない〜撮る・読む・伝える–「体験的」写真論〜|小林紀晴

ホームページやブログ、SNSの運用において写真は重要な要素です。写真は伝えたい事柄を直感的に伝える特徴があるので、できるだけ効果的に使いたいところですが、いざ選ぼうとすると難しいものです。では写真のプロはどうなのか。プロも「わからない」そうです。

本書は、30年以上写真に携わってきた著者の撮影経験や学生への指導経験などを通じて「いい写真とはなにか」を私たちに語りかけます。本書を通じて、写真は「わからないものである」こと、ただし「考え方はあること」を受け止めていただけると、今後のブログやSNSの運用が楽になると思います。

目次

写真は「わからないもの」だった

「わからないもの」ということがわかった

まず、写真はわからないものだということを明示してくれた点にありがたさを感じます。私は販売促進に関わる仕事柄、写真を選ぶことがよくあります。その際は自分なりの判断基準で、この写真はこのような印象を与えるはずなので良さそうだ、と選んだり説明したりしています。そして、その進め方にモヤモヤとしたものを感じていました。

本書は、写真がわかる、わからないというテーマを、「いい写真」とは何か、と解像度をあげながら掘り下げます。

その「わからなさ」は数学の数式を解けないとか、英語の単語が思い出せないとかといったものとは明らかに違う。あらかじめ正解が用意されているわけではないからだ。年齢を重ね、経験が増えれば、本来だったら理解度が増すはずなのに、それに反比例してわからなくなってゆく感覚がある。

はじめに

写真は数値化できない。だからわかりにくいという側面もあるだろう。撮る者、観るものの主観に頼るところが大きい。人によって価値観や感じ方も違う。理解力も変わってくる。なにより絶対値がない。

終章 写真はなぜ「わからないのか」

写真は人の主観に頼るので数値化できない、そして主観は経験によって変化するので一定ではない、だからわかりにくいのですね。私たちも「わからないものだ」という前提を置くと写真が扱いやすくなると思います。

数値化できないが言語化はできる

わからないが、説明は求められる

「わからないものだ」という前提を置くと扱いやすくなると述べましたが、仕事の上では「なぜこの写真を選ぶのか」という説明が必要です。例えば、社内への説明や外注先など社外への説明があります。その時に(どうせわからないものだから)「何となく」「好ましいから」では納得感のある説明になりません。仕事のP D C Aの視点からは未来の自分への説明も必要でしょう。

ですから、写真は数値化できないことは理解できますが、選択する際の足がかりになる「考え方」が欲しくなります。

説明の足がかりになる考え方

著者は様々な写真コンテストの審査員でもありますが、著者の審査の視点が参考になります。

私の基準は二つの要素+αからなる。

・新鮮であるか。

・新たな価値観の提示になっているか。

さらに+αとして「自分には撮れないと思わせてくれるもの」が加わる

終章 写真はなぜ「わからないのか」

ここでの「新鮮であるか」はインパクトの有無のことで、著者は「たとえ地味であってもふっと風が吹き抜ける感じ、見る側の感情が動くもの」と説明しています。同様に著者は「新たな価値観の提示になっているか」はオリジナリティのことで、逆の意味である既成の価値観については絵ハガキ的写真などをあげています。

さて、これらの視点は「作品」としての写真を評価する軸なので、私たちの実務に落とし込むためには応用が必要だと思います。例えば、対象顧客の感情に訴えられるインパクトがあるか、製品やサービスのオリジナリティを表現できているか、と捉えたらどうでしょう。

なお、+αの「自分では撮れないと思わせてくれるもの」は「作品」の評価軸そのものと思いますので、ここでは除外していいでしょう。むしろ以下の一文が参考になると思います。

高校生を対象としたコンテストの審査員をしていた時のことだ。男子高校生が海辺でお母さんをとった写真に目がとまった。無視できなかった。ふっと自分の身体を風が通り抜けていった。こんな一枚を自分はずっと以前から求めていた、という気分だった

終章 なぜ写真は「わからないのか」*下線は筆者が加筆

「こんな一枚を以前から求めていた、という気分」これは「共感」と捉えていいでしょう。潜在意識の中にあった事柄を示されたときに「それそれ!」と思う感情です。共感の種類の中では「認知的共感」(感受性や価値観の一致を認める共感)にあたるでしょう。ここをヒントにもう一つの軸として共感性を加えてもいいでしょう。

まとめるとこのようなイメージです。

インパクトがあるか

対象顧客の感情に訴える力があるか

オリジナリティがあるか

製品やサービスのオリジナリティを表現しているか

共感性があるか

対象顧客の共感に働きかける表現か

共感についてはこちらの記事もご参照ください。

著者について

著者の小林紀晴さんの作品や著書には25年ほど前に出会いました。ちょうど私が写真を始めた頃で、著者の被写体と正面から向き合う写真と、優しい視点の中にも問題意識を感じさせる文体に特に惹かれました。本書にも撮影に関する様々なエピソードが紹介されていますので、ぜひ手に取ってご確認ください。

  • 「写真はわからない〜撮る・読む・伝える–「体験的」写真論〜」 小林紀晴 光文社新書

お伝えしたかったこと

ホームページやブログ、SNSの運用において写真は重要な要素です。写真は伝えたい事柄を直感的に伝える特徴があるので、できるだけ効果的に使いたいところですが、いざ選ぼうとすると難しいものです。今回は、写真は「わからないものである」こと、ただし「考え方はあること」をお伝えしました。

それでも自分一人では、という場合は経営と表現に明るい第三者をご活用いただければと思います。

この記事はポッドキャストでも配信しています

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