顧客ニーズとは、お客様が求めていること、つまりお客様が解決したい困りごとです。あなたのお客様のお困りごとは何でしょう。ここをしっかり書くと事業計画書の必然性は高まります。
ニーズとは理想と現実の間のギャップ、つまり困りごと
ニーズとは、マーケティングでは「欠乏を感じている状態」と定義されています1。「理想と現実の間にあるギャップ(隔たり)を埋めたいという心理」と言ってもいいでしょう2。
人間の心理的なものなので一見捉えどころがないように思えますが、簡単に言えば「こうだったらいいのに(でも現実は違う)」という気持ちです。具体的な例で考えてみましょう。
日常生活では「喉を潤したい(でも水がない)」「寒くなってきたのでそろそろセーターを着たい(でも手持ちにピンとくるものがない)」という気持ちです。
事業では「この精度で加工したい(でも技術が不足している)」「在庫を減らしたい(でも減らすと不安だ)」とった感情が挙げられます。
これらは「不足」「不安」「不満」のように「不」がつく感情と関連しています。つまり「困りごと」と言い換えられるでしょう。顧客のニーズは「困りごと」の視点で探ると見つけやすくなります。
この「困りごと」を探る効果的な方法として、人の検索行動に注目しましょう。私たちは問題に直面すると、その解決策をインターネットで探すものです。例えば、表計算ソフトの操作に困ったときは「表計算 セル操作 方法」といったキーワードで検索するでしょう。つまり、検索エンジンに入力されるキーワードは「困りごと」に関係しているのです。これらのキーワードを分析すると、顧客のニーズを具体的に把握することができます。
言葉になっているニーズと、言葉になっていないニーズ
検索エンジンに入力されるキーワードは顧客のニーズを表していると述べましたが、より正確には、これは「頭の中で言葉になっているニーズ」です。
一方で、「頭の中で言葉になっていないニーズ」も存在します。例えば、掃除ロボットを考えてみましょう。この製品が登場する前、多くの人は「留守中に床を掃除してくれる家電があったらいいのに」と明確には思っていませんでした。しかし、掃除ロボットが発売されると「実はこれが欲しかった」と気づきます。このように、まだ認識されていない「言葉になっていないニーズ」が潜在的に存在するのです。
言葉になっているニーズと言葉になっていないニーズ、両方を考えることが大切です。
例えば、次のようなケースを考えてみましょう。「ランチの店を探して入ったお店が、思いのほか居心地が良く、コーヒーも美味しかった。ゆっくり一人でコーヒーを楽しむのもいいかもしれない」と気づく場面です。
この例では、言葉になっているニーズ(ランチに適した店)と、その時点では言葉になっていなかったニーズ(一人の時間を楽しむ場所)の両方が含まれています。
自社の製品やサービスを分析する際は、これら二種類のニーズを意識することで、より深い顧客理解につなげることができますし、事業計画書の説得力を高めることにもつながります。
消費者のニーズと事業者のニーズ
ニーズは「理想と現実の間のギャップ」と先ほど説明しましたが、このニーズは消費者と事業者で異なる特徴を持ちます。
消費者のニーズは「生存」「安全な生活」「社会での所属や承認」などの基本的な欲求から生まれます。飲食店を例に挙げると、「清潔で安心できる店」「人とつながれる空間」「良い店を知っているという自己肯定感」といった形で表れます3。物質的な豊かさが達成された現代社会では、「体験」そのものがニーズの中心となっています。これらの視点は、消費者のニーズを深く理解するための重要な手がかりとなります。
事業者のニーズは主に業務に関連します。例えば、製造現場では「品質向上」「コスト削減」「納期短縮」が、販売現場では「新製品開発」「適正価格の実現」「販路開拓」「販売促進」などが挙げられます。これらはすべて、理想と現実のギャップから生まれるニーズです。
顧客ニーズと市場の動向の違い
小規模事業者持続化補助金の経営計画では「顧客ニーズ」と「市場の動向」が求められています。「顧客ニーズ」は「市場の動向」と同じように感じるため、多くの申請者がこの2つを明確に区別せず、漠然と記述してしまう傾向があるようです。そこで、顧客ニーズと市場の関係を整理してみます。
「市場」とは「製品やサービスを購入しようとしている人と、今後購入する見込みのある人の集まり」と定義されます 4。少し大胆な表現ですが、市場とは「ニーズを持つ人々の大きな集合体」とイメージすると理解しやすいでしょう。
さらに、過去の小規模事業者持続化補助金の公募資料では、市場について、競合他社の存在、対象顧客層の増減、そして過去から将来の見通しを含めて記述することが求められています5。つまり、ここでの「市場」は自社の顧客だけでなく、「より広域な範囲における、自社や競合社が提供する商品やサービスへのニーズ」と捉えるべきでしょう。具体的には、市区町村、都道府県、国レベル、さらには競合が提供する製品やサービスを含めたニーズを指すことになります。
これに対して顧客ニーズは「お客様(消費者、取引先双方)が求めている商品・サービス」とあります。顧客ニーズは自社や自店の直接的なお客様のニーズと考えれば整理しやすいと思います。
補助金の申請書への活かし方
「業界地図」で市場を概観する
市場の動向を調べるには、国の統計や民間調査機関、業界団体の発表資料が参考になります。しかし、適切な資料を見つけるのは容易ではありません。そこで、業界全体を簡単に把握できる「業界地図」6をお勧めします。これはいくつかの出版社から刊行されている出版物で、業界の構造を一目で理解できるよう編集されています。市場規模、主要プレイヤー、業界トレンドなどが分かりやすくまとめられており、さらに関連情報源(ウェブサイトや書籍など)も記載されています。「業界地図」は、業界を理解する入口としても、より詳細な情報への道しるべとしてもお勧めできる資料です。
業界の主要企業の決算報告書をチェックする
業界地図で主要プレイヤーを把握したら、次はそれらの企業の決算報告書を調査しましょう。多くの場合、これらの報告書には投資家向けに業界動向の詳細な説明が含まれており、非常に有益な情報源となります。
「RESAS」を活用してビックデータを活用する
地域の人口動態などを調べるには、国が提供している「RESAS(地域経済分析システム)」7が非常に有用です。このシステムは一般に公開されており、**産業構造や人口動態、人の流れなどのビッグデータを、わかりやすいマップやグラフで表示できます。**RESASを活用することで、地域の経済状況を視覚的に把握することができるでしょう。
身近なお客様の「声」は貴重な情報源
自社の顧客ニーズを示すには、お客様から寄せられる「声」の紹介が効果的です。顧客アンケートなどのデータがあれば説得力が高まります。また、日々の接客の中でお聞きする生の声も貴重な情報源となります。
顧客ニーズとは「お客様が解決したい困りごと」です。B to C、B toBともに共通です。あなたのお客様のお困りごとは何でしょう。ここをしっかり書くと事業計画書の必然性や説得力は格段に高まるでしょう。
参考
- 「コトラーのマーケティング入門[原書14版]」フィリップ・コトラー ゲーリー・アームストロング マーク・オリバー・オプレスニク、恩蔵直人(監訳)、 2022年1月、丸善出版(P9、P13)
*ニーズが具体化されたものを「ウォンツ」、購買力に裏付けされたものを「需要」といいますが、難しくなるので本稿では区別していません。 ↩︎ - 「世界観をつくる 知性✕感性の仕事術」山口周 水野学 著、朝日新聞出版(P6) ↩︎
- 「完全なる経営」A・H・マズロー、日経BPマーケティング
「ドリルを売るなら穴を売れ」佐藤義典、青春出版社 ↩︎ - 脚注1参照 ↩︎
- 小規模事業者持続化補助金記載例(平成30年度2次補正)
“お客様(消費者、取引先双方)が求めている商品・サービスがどのようなものか、ま た自社の提供する商品・サービスについて、競合他社の存在や対象とする顧客層の増減 など売上げを左右する環境について、過去から将来の見通しを含めお書きください。”
https://h30.jizokukahojokin.info/files/4215/5601/3114/kisairei_h30.pdf
↩︎ - 「会社四季報 業界地図」東洋経済新報社
https://str.toyokeizai.net/-/gyoukai/
「日経業界地図」日本経済新聞出版
https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/24/07/25/01507/
↩︎ - RESAS(地域経済分析システム):内閣官房および経済産業省が提供。産業構造や人口動態、人の流れなどに関する官民のビッグデータを集約し可視化するシステム。
https://resas.go.jp/#/13/13101
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